高校生は“可能性のかたまり”。視野を広く持つことで、その可能性がどんどん広がる

井上さん 日向高校出身

違う土地で働く自分をイメージできないほど、地元で働きたいと願っていた

今の仕事に就いた経緯から聞かせてください。

子どものころから、地元の美郷町で就職して暮らしたいという希望を持っていました。違う土地で働く自分をイメージできないくらい、地元への愛着が強かったですね。

ただ、一度は視野を広げるためにも違う環境を経験したいと考え、高校を卒業後は福岡県の公務員専門学校に進学しました。その後、地元の役場を希望して試験を受けたのですが、試験に落ちてしまいました。

ちょうどそのタイミングで、亡くなられた岡田商店の会長から「男手がほしいからうちで働いてみないか」と声をかけていただきました。幸運にも地元で就職先が見つかったので、ぜひにとお願いして働くことになりました。

現在の業務内容を教えてください。

椎茸の仕入れや買い付け、加工から選別、袋詰めまで、関係する仕事はほとんど担当しています。

今でこそ詳しくなりましたが、働き始めた当初は、本当に椎茸は未知の世界でした。椎茸の“し”の字も分からないような状態(笑)。美郷町の特産品ということは知っていても、実際に売る側になるとまったく知識がない状態でしたね。

椎茸は丸いかたちをしたものを「どんこ(冬菇)」、傘が開いたものを「こうしん(香信)」と呼ぶのですが、そういった基本的な部分から覚え始めました。

特に苦労したのは選別の作業ですね。椎茸は自然が育むものなので、1つとして同じサイズがありません。気候や雨量によって、年単位だけでなく月単位でも質や規格が違ってきます。そこを見分けて選別するには経験を積むしかないので、仕事をしながら覚えていく毎日でした。

自然が相手の商品なので、椎茸は今でも勉強することばかりですね。

椎茸の魅力やおいしさが伝った瞬間に大きな喜びを感じる

お仕事をしていて喜びを感じる瞬間はどこですか?

岡田商店では「ナバ手羽餃子」という商品を販売しています。一般的な手羽餃子と違い、餃子のひき肉の代わりに原木乾椎茸のミンチを包んでいるのですが、これを地元の学校給食で提供しています。

給食を食べた子どもたちから「おいしかった」という声が届いたときは、喜びを感じる瞬間ですね。給食のリクエストを聞くとナバ手羽餃子が上位に挙がるそうで、保護者の方からは「ナバ手羽餃子で椎茸嫌いがなくなった」という声を聞くことも多くなりました。

やはり椎茸の魅力やおいしさを伝えたいという部分は、自分たちが働く上で大切にしていることなので、それが直接伝わったと感じられる瞬間には大きなやりがいを感じますね。

プライベートの時間で取り組まれていることはありますか?

小学生を対象にしたサッカークラブのコーチをしています。自分の叔父が立ち上げたクラブで、そこを引き継いで指導しています。

田舎の小さなクラブですが、子どもたちが一生懸命ボールを追いかけて、少しずつ成長する姿を見るのはうれしいですね。強豪チームに勝った試合などはみんなで喜びを爆発させています。

実はもともと高校の体育の先生になる夢を持っていました。それはかなわなかったのですが、今こうして違った形で夢をかなえることができているので、幸せに感じますね。

興味があることにアンテナを張っておく。視野を広く持って情報をキャッチして

お仕事の面でこれからの目標を聞かせてください。

椎茸の普及や消費拡大にもっと取り組んでいきたいですね。そのためには、地道な活動を続けていくことが大切だと思っています。

岡田商店でもSNSを活用した発信や、食育活動などに取り組んでいます。コロナ禍の前は、毎月イベントなどにお店を出店して、ナバ手羽餃子や椎茸を販売していました。今後状況が落ち着いてくれば、またそういった活動に積極的に取り組んでいきたいですね。

では、プライベートの面での目標はいかがでしょうか?

プライベートの面では、サッカーの活動を継続して頑張っていきたいと思っています。技術はもちろんですが、自分が一番大事にしているのは「人づくり」の部分です。学校の勉強だけでは教えられない、人としてのふるまい方や接し方、そういった内面の部分を成長させるきっかけを与えてあげられればと思っています。

最近では教え子の中から、選手を育成するためのトレセン(トレーニングセンター制度)に選ばれる子どもが増えてきました。選ばれた本人は自信になりますし、そういう姿を見て、自分も頑張ろうと周りもモチベーションを高めてくれる。そういう団体競技ならではのサイクルが、もっと人づくりの面につながってくれたらいいですね。

毎年12月30日には、クラブで“蹴り納め”をするのですが、OBの子どもたちが朝から地元に帰ってきて一緒にボールを蹴ってくれます。すでにサッカーを離れている子もわざわざあいさつに来てくれます。彼らにとってここでの経験が、何かしら特別な時間として残ってくれているなら、本当にうれしいですね。

最後に、社会人の先輩として高校生にメッセージをお願いします。

外へ目を向けることに積極的に取り組んでもらいたいですね。

興味がある仕事があるなら、たくさんの情報を見たり聞いたり、普段からアンテナを張っておくことが大切だと思います。特に今の時代は、スマホやパソコンを使ってたくさんの情報にアクセスできます。視野を広く持っておけば、そのアンテナに引っかかるものがきっと見つかるはずです。

それから、1つのことを追求することも大事ですが、こだわり過ぎて視野が狭くなると選択肢が狭まってしまいます。今のうちにいろいろなことを体験しておくことで、自分の選択の幅を広げていってください。

実はこれは経験談で、自分も高校のころはサッカーばかりに夢中で、いざ進路を選択するとなったときに焦ってしまった記憶があります。

高校生は“可能性のかたまり”です。視野を広く持っておくことで、その可能性がどんどん広がっていきます。悩んだり不安になるときもあるかと思いますが、ぜひ前を向いて、自分たちの可能性を信じて進んでいってください!

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