良いものを作っているからこそ “知ってほしい”が原動力

大山さん 本庄高校出身

学生のころは家業に興味を持つこともなく、選択肢にありませんでした

大山食品は玄米酢の製造からはじまった1930年創業の老舗。小さなころから家業に触れるなど意識する機会はありましたか?

大山食品では年に1回季節の新酢を祝うイベント「くろずまつり」が開催されていて、幼いときにお祭りに行っていた記憶はあります。

高校生のころは弓道部で、そのときにお酢を飲んだり、差し入れをしたぐらい。こんにゃくも製造していると知らなかったぐらい、興味を持つことはありませんでした。

後はパソコンが昔から得意だったので、お小遣い稼ぎとしてたまに事務作業の手伝いをしていたぐらいです。

高校卒業後は東京に行きたくて、就職するならお給料の良い会社がいいと思ったので、電車に乗ったこともないのに観光系専門学校の鉄道科に進学。鉄道会社に就職し、駅員をしていました。

大山食品で働きたいと思ったきっかけはどんなことですか?

鉄道会社に就職してからは、会社に何の不満もなく、すごく楽しく仕事をしてはいたけれど、鉄道にあまり興味を持てないままでした。3年目になると昇格試験を勧められましたが、昇格することに意欲が湧かない自分に疑問を抱いてしまって…。

最初の就職先を選んだ決め手は給料。でも就職して働いているうちに自分なりに感じる“やりがい”について考えるようになって。

東京で働いている間、ネット通販でうちの商品を購入していたんです。実家に送ってほしいと伝えると、身内だからこそ後回しにされて1年とか経っちゃうかもしれないので。

でもうちの通販サイトが古くて使いにくかったので、時代に合わせたサイトにリニューアルしたらいいのにと思っていました。

同僚に「うちの会社、食品を作ったりしているんです」という話をしたときには、「SNSやってる?」と聞かれて、何もやっていないと答えるしかなかったり。どういう商品か聞かれても、説明するために自分が分かりづらいと感じる通販サイトを見せようとは思いませんでした。

すごく良いものを作っているのに、魅力が伝わらない、伝えられないというもどかしさがありました。

やりがいのある仕事を見つけたいと転職を考えた際に、うちの会社が思い浮かびました。絵を描くとかデザインをすることが昔から好きだったので、うちの会社だったらそれもできるし、外から見て「こうなったらいいのに」と思っていたことを実現できると考えました。

社長に「でも私は宮崎に住みたくない」と伝えたら、「半年だけ勉強のために帰ってくれば大丈夫。半年後には東京支社を作るから」と言ってくれたので、入社を決めました。

最初は宮崎に戻りたくなかった。離れたからこそ気付けた魅力

勉強のため宮崎に戻ってきて2年。まだ東京に戻っていない理由は?

東京が楽しかったから、入社しても東京に住み続けたいと思っていました。でも今、東京に戻りたくないんですよね。

どこにでも好きな場所に行ける車ってすごい。休日の楽しみは温泉に行くことです。あとはとにかく食べ物がおいしい。

あとは、この会社で働くなら私はここにいたほうがいいんじゃないかと思うようになりました。営業・事務として入社したけれど、現場を知るために工場にも入っています。

会社で働く人は20代が自分だけで、40代が1人、あとは全員50〜60代。最初は20年以上働いている人ばかりの中で「こうしたほうが良いんじゃないか」という自分のアイデアを伝えるのは恐れ多く、難しく感じました。

でも私が事務・製造かかわらず幅広くフリーで働き続けたこともあって意見を言いやすいのか、いろんなことを伝えてもらえるようになって。何でも屋さんみたいな感じでもないですけど、些細なことでも対応していくことで、なじめるようになりました。

入社歴が浅い私だからこそ、新たな目線で改善につなげる役目ができるのかなと思います。

やりがいにつながっているのはどんなところですか?

社員数が少ないというのもあるけれど、どこまででも自分の力で伸ばせるような可能性があって。

「古い会社だからこそもっとアピールすれば良さが伝わるのに、伝えようとすれば伝わる可能性は無限大にあるはずだ」と思っていました。

“良いものを作っている”という誇りがあるからこそ、アピールする方法などを考えている時間がすごく楽しいです。

今は、私が会社を引き継ぐという前提では働いていません。

社長に「継ぎたいとは思っていないんだけど入社していい?」と聞いたときに「そこは心配しなくていいよ」と言われたので、何も考えずに入社しました。

私は5人姉妹の長女で、妹たちはそれぞれの道を歩んでいます。いずれは妹たちも興味を持って、入社してくれるかもしれない。

社長が考えていることを知り、妹たちにも伝えていくことで、誰が引き継いでもいいようにしていきたいと思っています。必要とされる会社は自ずと受け継がれ残っていく、と社長も話していましたし。

まずは“やってみる”ことで見つかるものがある

会社を残していく、それは何のためだと思いますか?

やっぱり、働いてくれている社員さんのためというのが一番なのかなと思います。地元の方をもっと採用して、社員の数も増やして、働きやすい工場にしていきたいです。

良いものを作っているけれど、地元でもうちの会社のことを知らない人が多く、会社が見えにくい場所にあるし、何を作っているかわからないとよく言われます。

周囲の知名度も、会社の信頼や地域の活気に繋がると思います。そういう意味でも“地域から必要とされる会社”であり続けることで、いろんな方に入社してほしいです。

高校生に向けてアドバイスはありますか?

「慎重になりすぎるな、まずはやってみないと、わからない」。働きはじめる最初の理由や条件は何でもいいし、あまり不安にならなくて大丈夫。今やりたいことが見つからなくても、社会に出てからでもいろいろ見つかるはずです。

私は今、社長に同行し、恐れ多いような役職の方と会う機会が多いです。

そこで皆さんがおっしゃるのは、「失敗は恐れないで。私もまずはやってみようみたいな感じでチャレンジしてきたら、ここまできた」というような話。

今、安定していることも、いつなくなるかわからない。いろんなことにチャレンジし、可能性を広げていくことは、良いことだと思います。

インタビュートップへ